2012年5月16日水曜日

見る者を魅了する憂いを含んだ少年

「国宝 阿修羅展」を開催中の九州国立博物館(福岡県太宰府市)などは8日、興福寺の阿修羅像(734年)の原型となった塑像の姿を、X線CTスキャン調査で復元することに成功した、と発表した。阿修羅像の代名詞となっている憂いを帯びた表情と異なり、細面で厳しい顔つき。現在の顔は原型を忠実に写し取ったわけではなかったことが明らかになった。

阿修羅像は、土で造った原型の塑像に麻布を張って漆で塗り固める脱活乾漆(だっかつかんしつ)技法でできている。麻布が固まったあとに原型は抜き取られたため、像の内部は空洞になっている。この空洞部分を正確に3次元処理すれば、原型の姿がわかる。

興福寺、東京国立博物館、九博、朝日新聞社は共同で、あらゆる角度から像の内部を透視し、立体画像で原型を復元。その結果、もともとは細く厳しい表情だったことが判明した。

また、胴部には着衣の表現がなく、顔に比べておおまかな造りだった。髪を束ねた髻(もとどり)も、現在の形より鋭い円錐(えんすい)形で、頂上部の背後はやや垂れ下がっていた。顔面の凹凸の差が大きい部分には、内側から補強目的とみられる麻布が張られていることもわかった。

見る者を魅了する憂いを含んだ少年のような表情が、制作者らの意図で当初の計画から変更されたのか、あるいは制作過程で自然にできあがったのかは不明だが、仕上げは木の粉と漆をペースト状に混ぜた木屎漆(こくそうるし)で整えられたとみられる。

興福寺国宝館の金子啓明館長は「木屎漆による調整の機能は大きかったようだ。目視だけでは判別できない画期的な情報を得られたので、脱活乾漆の技術の解明に近づくことができた」と話している。