2013年3月30日土曜日

シャッターを押す前に

水とホコリとカビがカメラの健康を害する三大要素ですが、一年のうちでは、やはり梅雨どきがカメラにとっていちばん苦手な季節でしょう。しかし、雨が降りつづいているからといって、写真を撮らないわけにはいきません。雨の日、池に浮かぶ睡蓮の葉に転がる透明な珠。雨滴がつくる円い波紋。葉脈に踏んばって懸命に口を動かす青虫の幼虫。雨にけぶる濡れた歩道を歩く二人連れIちょっと写真を撮りたくなるようなロマンチックな場面に、あちこちでお目にかかれる季節でもあるからです。

雨からカメラを護るのに筆者が重宝しているのが、ホテルに備えてあるような、透明ビニール製の使い捨てシャワーキャップです。縁にゴムがついているのでとても便利です。三脚を使う場合も、これをカメラの上からかぶせるようにしています。雨の日は大き目の傘をさして撮影しますが、少し降りが強いときは、ゴルフ用の上下のレインウェアで武装します。撮影が終わったら、乾いた布でカメラの隅々まで注意深く拭き取ってやります。

カメラは、何かの拍子に落としたりぶつけたり、思わぬアクシデントに見舞われることがありますが、外傷だけで判断するのは危険です。カメラは高級品になると一千個にもおよぶ部品から組み立てられているので、少しのへこみや衝撃でも中の部品が破損していることがあります。ボディがガタついていたり、振ると音がするようなときは、絶対に自分でネジ回しで開けたりしないでください。どのメーカーにも故障の相談に応じるサービス部門がありますから、そこに持っていくことをおすすめします。

不運にも部品交換が必要な故障でも、日本では経済産業省によって各メーカーは製品の製造を打ち切った時点から、初級機で五年、中級機で七年、高級機で十年間、補修用性能部品を保有することが義務づけられているので、部品。の在庫さえあれば助かる可能性もあります。いずれにせよ、カメラは自分の体と同じだと思って、メンテナンスには十分に気を配ってやりたいものです。次々と最新型のカメラに買い替える人もいますが、ボディのあちこちにキズやへこみができ、角がすり減って黄銅の地金が顔を出しても、鏡胴の黒い焼付けが手擦れで白っぽくなったレンズとともに使いつづけている人もいます。

ボディのキズやへこみは誰にとっても残念な。ものですが、それも時とともに癒え、やがてそのカメラのチャームポイントにさえなってゆきます。たとえキズはあっても、手入れのゆき届いたカメラからは、その人の愛機への信頼と写真に対するボルテージの高さが伝わってきて、思わず心の中で脱帽してしまいます。カメラのボディは頑丈な金属や強化樹脂でつくられているので、多少乱暴に扱ったぐらいで壊れることはありませんが、何度も言うようですが、内部はデリケートな精密機械であることに変わりはありません。毎回とはいいませんが、たまには撮影前にボディからレンズを外して、レンズの表面に指紋や小さなホコリがついていないか点検してみてください。

指紋はレンズクリーナーを使い、表面に傷をつけないようていねいに拭き取ります。ボディの中や裏蓋を開けてよく見ると、パトローネを入れる場所や巻き取りスプールに細かいホコリがついているものです。ブロアーで空気を強く吹きつけ、ゴミやホコリを飛ばしてやります。このような清掃作業を怠っていると、思わぬときに大切なコマにホコリの影が写ってしまい、泣くに泣けない思いをすることがあります。