それでは、アメリカ経済のなかで生産性の伸びが大きい産業はどれだろうか。まず、モノ(食料、衣料、自動車など)をつくる分野では生産性が上昇しているが、サービス業の生産性はあまり上昇していない。さらにいうなら、必要な情報をパターン化し、コンピューターやロボットのプログラムを組むことが比較的容易な分野では、生産性が大幅に上昇している。逆に、散髪や医療など情報処理の手順がわかりにくく、きわめて複雑な仕事、つまり、いわゆる常識が重要な要素になっている仕事では、生産性の伸びははるかに低い。
コンピューターやロボットに人間の代わりをさせることができない仕事、人間の感性を必要とする仕事は、直接に人と接するタイプの仕事でもある。農業、製造業、対人サービス以外のサービス業の生産性がきわめて高くなったため、アメリカ経済は他の分野、つまり貿易財以外のモノとサービスを生産することに力を入れるようになっている。その結果、最近では、都市住民の多くが「非輸出ペース」の仕事についている。ロサンゼルス住民の多くが地元で消費されるサービスを生産しているのは、このためだ。ニューヨーク、ロンドン、パリ、それに現在のシカゴでも事情はおなじである。
これでようやく結論に入ることができる。アメリカ経済を懸念する人は多い。これは当然である。アメり力経済は実際に、‘たくさんの問題を抱えている。しかし。、こうした人たちは見当違いの心配をしていることが多い。たとえば、「空洞化」の問題だ。製造業の職はいったい、どこにいってしまったのだろうと嘆く。そして、アメリカ経済が以前と違って、とらえどころがなくなっているのを見て、なんとなく不健全な気がしており、「消費は豊かだが、生産はそうとはいえない」(最近の『国際競争力年報』の言葉)と心配する。
しかし、ロサンゼルスを見るといい。典型的な工業都市ではないが、アメリカの他の大都市とくらべれば、製造業の比率が高いことはたしかだ。統計があれば、ロサンゼルスの工業製品輸出が輸入を上回っていることが、おそらくわかるだろう。ロサンゼルス住民の多くが、目に見えるものを生産しているわけではないが、それは、目に見えるものを生産することが得意なために、目に見えないものの生産にエネルギーを傾けているからである。一〇〇年前のシカゴと違うからといって、いまのロサンゼルスに問題があると考えるべきではない。
いうまでもなく、ロサンゼルスは現在、深刻な不況に陥っている。景気予測が専門のエコノミストは、今の不況はたまたま悪い条件が重なったためだと見ており、大幅な回復を予想している。しかし、今後、ロサンゼルスの景気が回復するにしても、以前とくらべて足取りが鈍くなる可能性もある。技術の進歩によって、二I世紀には別のタイプの都市が繁栄することになるだろう。あるいは、経済がさらにとらえどころがなくなり、全員が都市を脱出できるようになるかもしれない。しかし、ごく近い将来や遠い将来は別として、ロサンゼルス経済、アメリカ経済の見通しを言うならこうなる。外の世界とのつながりはとらえにくい面もあるが、基本的に経済はまともであり健全である。経済がとらえどころがないと、つい不安になるものだが、都市や国の豊かさはそう簡単に衰えたりはしない。
2013年7月5日金曜日
経済がローカル化
もっと別の理由がある。これはなかなか理解してもらえそうにないが、ロサンゼルスが世界に売っている財・サービスの種類は、意外に少ない。つまり、ロサンゼルスで働く人の多くは、遠くの消費者になにかを売っているわけではない。裏を返せば、ロサンゼルスの雇用の多くは、「非輸出ペース」の業種に依存しており、ロサンゼルスで生産される財、そして、とくにサービスの多くは、地元の労働者によって地元の消費者に提供され、地元で消費される。消費するものの種類(ショッピングーモールの店員、弁護士、指圧師、教師などが提供するサービスなど)はどこに住んでもほとんど変わらないため、ロサンゼルス経済が「アメリカに似ている」と感じることになる。
しかし、一〇〇年前のシカゴについても、それがいえるのではないか。いえないことはないが、いまのロサンゼルスほどではない。最近、経済がグローバル化している、あるいは、世界が狭くなっているとよくいわれるが、都市の経済を見ればローカル化が進んでいる。大都市圏に住む労働者のうち、圏内のみを対象にサービスを生産している者の比率は、着実に高くなっている。一八九四年当時のシカゴではおそらく、輸出ベースの雇用が全体の半分以上を占めていた。つまり、労働者の半数以上が精肉、製鉄などの仕事につき、シカゴ製とわかるものを世界に売っていた。現在のロサンゼルスでは、この割合はおそらく四分の一程度にすぎない。
経済がローカル化していることを考慮すれば、世界経済の一見、矛盾する現象も説明がつく。世界生産に対する世界貿易の比率が、一〇〇年前とくらべてそれほど大きくなっていない原因は、ローカル化の進行にある。実際の統計を見てみよう。ブ九九三年には、アメリカの国民所得に対する輸入の比率は一一パーセントとなっている。一八九〇年にはこれが八パーセントであった。露骨な保護主義政策をとっていた一九世紀とくらべて、現在のアメリカ市場が開放されていることを考えれば、この程度の増加は、増加とは呼べない。さらに、当時、他の国は、はるかに貿易依存度が高かった。一八五〇年代のイギリスでは、国内総生産に対する輸出の比率が約四〇パーセントに達しており、現在を上回っていた。
しかし、現在では輸送、通信技術の進歩によって「付加価値連鎖の爆発的な拡大」が可能になったとよくいわれる。台湾のメーカーが、アメリカ製のマイクロプロセッサーにシンガポール製のディスクードライブを接続し、中国製のプラスチックーケースに納めて、アメリカに輸出できるようになっている。このようにモノが行ったり来たりしているにもかかわらず、生産工程が単純だった一九世紀末とくらべて、貿易の比率がそれほど上昇していないのは、なぜだろうか。それは、工業製品の行き来はかつてなく激しくなっているが、その一方で、こうした貿易財がアメリカ経済に占める比重が着実に低下しているからだ。
これは決して偶然ではない。経済と技術の質的な変化に深く根ざした傾向である。まず、一見、矛盾する法則について考えてみよう。時がたつにつれ増えていく仕事は、アメリカ経済が得意な分野の仕事ではなく、不得意な分野の仕事である。アメリカ農業の生産性はきわめて高い。その結果、アメリカは食糧の自給はもとより、世界各国に大量の農産物を輸出しているが、労働人口に占める農業部門の就業者の比率はニパーセントにすぎない。これに対し、レストランで給仕したりレジを打つのに必要な人手は、一〇年一日のごとく変わっていない。アメリカの雇用増加の多くを外食産業や小売業が占めている背景には、こうした理由がある。生産性の伸びが大きい産業では、雇用が増加するのではなく減少する傾向にある。
しかし、一〇〇年前のシカゴについても、それがいえるのではないか。いえないことはないが、いまのロサンゼルスほどではない。最近、経済がグローバル化している、あるいは、世界が狭くなっているとよくいわれるが、都市の経済を見ればローカル化が進んでいる。大都市圏に住む労働者のうち、圏内のみを対象にサービスを生産している者の比率は、着実に高くなっている。一八九四年当時のシカゴではおそらく、輸出ベースの雇用が全体の半分以上を占めていた。つまり、労働者の半数以上が精肉、製鉄などの仕事につき、シカゴ製とわかるものを世界に売っていた。現在のロサンゼルスでは、この割合はおそらく四分の一程度にすぎない。
経済がローカル化していることを考慮すれば、世界経済の一見、矛盾する現象も説明がつく。世界生産に対する世界貿易の比率が、一〇〇年前とくらべてそれほど大きくなっていない原因は、ローカル化の進行にある。実際の統計を見てみよう。ブ九九三年には、アメリカの国民所得に対する輸入の比率は一一パーセントとなっている。一八九〇年にはこれが八パーセントであった。露骨な保護主義政策をとっていた一九世紀とくらべて、現在のアメリカ市場が開放されていることを考えれば、この程度の増加は、増加とは呼べない。さらに、当時、他の国は、はるかに貿易依存度が高かった。一八五〇年代のイギリスでは、国内総生産に対する輸出の比率が約四〇パーセントに達しており、現在を上回っていた。
しかし、現在では輸送、通信技術の進歩によって「付加価値連鎖の爆発的な拡大」が可能になったとよくいわれる。台湾のメーカーが、アメリカ製のマイクロプロセッサーにシンガポール製のディスクードライブを接続し、中国製のプラスチックーケースに納めて、アメリカに輸出できるようになっている。このようにモノが行ったり来たりしているにもかかわらず、生産工程が単純だった一九世紀末とくらべて、貿易の比率がそれほど上昇していないのは、なぜだろうか。それは、工業製品の行き来はかつてなく激しくなっているが、その一方で、こうした貿易財がアメリカ経済に占める比重が着実に低下しているからだ。
これは決して偶然ではない。経済と技術の質的な変化に深く根ざした傾向である。まず、一見、矛盾する法則について考えてみよう。時がたつにつれ増えていく仕事は、アメリカ経済が得意な分野の仕事ではなく、不得意な分野の仕事である。アメリカ農業の生産性はきわめて高い。その結果、アメリカは食糧の自給はもとより、世界各国に大量の農産物を輸出しているが、労働人口に占める農業部門の就業者の比率はニパーセントにすぎない。これに対し、レストランで給仕したりレジを打つのに必要な人手は、一〇年一日のごとく変わっていない。アメリカの雇用増加の多くを外食産業や小売業が占めている背景には、こうした理由がある。生産性の伸びが大きい産業では、雇用が増加するのではなく減少する傾向にある。
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