2014年6月11日水曜日

公募発行と私募発行

これらのことから、金融取引において、資金の融通を受けた主体の状況を監視することは、資金提供者の利益を保全するために、ほとんどの場合に不可欠である。しかし、こうした監視(および監視の結果に基づいて、契約違反が認められた場合には、適切な対抗措置をとる)という活動は、審査の作業と同様に、費用と専門能力を要するものである。したがって、先と同じ理由で、監視の作業も、金融機関という専門的な組織に委託することが効率的であるといえる。

なお、金融機関が資金調達者を監視(モニターするのは、直接的には資金提供者の利益を守るためであるが、そのことは、資金調達者にとっても望ましいと考えられる。というのは、そうした監視が行われないならば、資金提供者は自己の利益に反する行動を資金調達者がとるのではないかという疑心暗鬼に陥り、資金提供そのものを拒否してしまうかもしれないからである。金融機関によるモニタリングは、資金調達者にとって、自己の潔白を証明する手立て(これを「ボンド」ともいう)ともなり得るのである。なお、以上述べてきた審査・監視活動を通じて金融機関が遂行している役割は、金融機関の働き(金融仲介機能)のうちで、とくに「情報生産機能」と呼ばれている。

右に述べた金融取引にあだっての審査や監視の必要性の度合は、すべての資金調達者について同じではない。その必要性が低い主体も、逆にその必要性が高い主体もあり得る。例えば、中央政府(国)や超一流とされる大企業などは、金融取引以外の活動を通じてほとんどの資金提供者によく知られている。こうした主体が資金調達者となるケースでは、事前に審査を行う必要性はかなり低いといえる。また、この種の主体がデフォルトを起こすおそれも少ないとみられるので、事後の監視の必要性もかなり低いといえる。

加えて中央政府や大企業が必要とする資金の量は、巨額に及ぶことが通例である。こうした場合には、多くの主体から資金を調達する必要がある。すなわち、これらの主体が資金調達を行うケースでは、多くの主体と取引することを可能にする条件(広く知られている、このことを「市場でのネームがある」という)とその必要性がともに揃っている。こうしたときには、資金提供に対する将来の見返りの約束を一定単位ごとに分割した「券」として必要な枚数だけ発行し、その券を購入してもらうというかたちで資金提供を受けるという方式がとられることがある。ここでいう資金調達のための券の実例としては、国債や株式、社債などがあげられる。以下、こうした券を「証券」と総称する。