2014年7月24日木曜日

経常収支黒字の縮小

バブル崩壊によって再び経常収支黒字が拡大し、年々円高となっていった。しかも円高が継続して起こっているのに、さらに経常収支黒字が拡大するという「異常な」事態となったことはこれまでの常識を破ることとなる。このため一九九一年から日本経済は長期の不況に入るが、景気の回復が見られるたびに円高となり、不況からの回復を妨げてきた。

円高の下で、経常収支黒字の縮小が成功しなかった原因については、次で議論することとしたい。円高傾向では、経常収支黒字とともに資本収支の動向が為替レートに大きな影響を与えることになる。先に述べたように、経常収支黒字であれば、円高は自然である。ここで円高抑制を狙うには、それを相殺すべき資本取引面での動きに期待することになる。

すなわち、先に述べた経常収支と資本収支の両者の引合いが為替レートに変動を与える。もちろん、経常収支黒字と資本収支赤字は必ず等しいので、統計上からはどちらの要因で為替レートが決まったのかはよくわからない。ただ、積極的な資本移動による外国資産の取得である長期資本収支の動きを見ると、その要因の動きがうかがえる。表に見られるように、為替レートが安定した一九八八年から九〇年にかけては、経常収支黒字が傾向的に減少したこともあるが、一方では長期資本収支の大幅な赤字が続いた。

一方、アメリカにおいても経常収支赤字は急速に縮小し、ほぼゼロに近づいた。これは円レートの低め安定を導いた。ところが、バブルが崩壊すると長期資本収支赤字は縮小し、九一年には長期資本収支は三七一億ドルの黒字となった。経常収支黒字の下での長期資本収支黒字はいかにも大きな不均衡を生かことになる。そして、アメリカでも経常収支赤字は急速に拡大していく。これらが円高を作っても自然である。問題はなぜ長期資本収支赤字が縮小したか、なぜ円高で経常収支黒字が拡大していったかである。

その後、長期資本収支の赤字幅は徐々に拡大するが、経常収支黒字の絶対額を大きく下回るものとなった。これでは経常収支黒字が円高となる要因が強く出て、資本収支赤字で円を引き下げる要因が低くなっても不思議はない。このために、円は一九九〇年四月に最安値の一五九・九五円を付けたものが一〇月には一ー四・四〇円へと急騰し、その後は下がっては上がるという動きをとりな、がらも傾向的に円高が継続していくことになる。

2014年7月10日木曜日

社会保障制度の新しい理念

今後の経済財政運営の基本方針となるべきものと言われています。「自助と自律」の精神を基本として、民間部門で実現可能な機能はそこに委ね、公的制度と補完性、競介性を合わせもった総合的な保障システムによって国民生活の安定を実現していくことを提唱しています。そして個人レベルで社会保障の給付と負担が分かるように情報提供を行う仕組みとしての「社会保障個人勘定(仮称)」システムの構築や「医療サービス効率化プログラム(仮称)」の策定を打ち出しています。

この二つの提言方針は、市場原理を重視し、公的関与を減らして小さな政府をめざすという方向で同一の流れの中にあります。もう一つの流れは、社会の安定と安心を確保する社会保障の役割を重視し、現行の社会保険方式を中心にした制度を維持しつつ、制度内の効率性を高めていく方向です。

その一つは総理府社会保障制度審議会の「社会保障体制の再構築に関する勧告、安心して暮らせる二十一世紀の社会保障を目指して」です。四年ほどかけて専門家が議論し、広く国民の意見を聞いたうえで作成し総理大臣に勧告したものです。総合的・体系的に社会保障全体を網羅して、新しい社会保障の理念、基本的な改革の方向を打ち出しています。公的介護保険や措置制度の改革などすでに実行に移されているものもあります。

「社会保障制度の新しい理念とは、広く国民に健やかで安心できる生活を保障することである」として普遍的な社会保障の新たな在り方を追求すべきことを説き、社会保険が今後ともわが国社会保障制度の中核としての位置を占めていかなければならない、としています。また、「若い世代は、高齢者の増加による負担の増大について心配している。したがって、社会保障制度が何についてどこまで保障するかを明確にし、それについて国民が十分理解することは極めて重要である」と述べ、若い世代の不安解消のため、社会保障の役割を明確化することの重要性を指摘しています。