2013年7月5日金曜日

経済基盤はほとんど影響を受けない

このように、ロサンゼルス経済は、地理的条件とは関係がなくなっているように見える。ロサンゼルス住民が生計を立てるためにしていることは、ほとんどが、どこの都市に住んでもできることだ。一八九四年当時、三〇〇万の人たちがシカゴに住んでいたのは、そこが中西部の玄関口であったからであり、背後に農場、森林、鉱山が控えていたからである。ところが、現在、ロサンゼルスに住む一一〇〇万の人たちは、人がいるからそこにいるのである。ロサンゼルスのまちを1000斗口離れたところにそっくり移したとしても、経済基盤はほとんど影響を受けないだろう。

それなら、経済基盤はどうなっているのだろうか。一〇〇年前のシカゴは、なにで成り立っていたのだろう。現在のロサンゼルスは、なにで成り立っているのだろう。がってのシカゴは、力-ルーサンドバーグが端的に語っているように、「世界の食肉取引の中心地」であった。この他、木材や小麦の取引、農機具の製造、石油精製、製鉄などの産業があったことはいうまでもない。一八九四年当時のシカゴは、モノをつくるか、あるいは中継することで成り立っていた。まちを一回りするだけで、シカゴがアメリカ経済、世界経済のなかでどのような役割を果たしているのか、だいたいはつかむことができた。

それでは、ロサンゼルスはなにで成り立っているのだろう。映画産業で働く一部の人は別として、ロサンゼルスの労働者は、他の都市の労働者とおなじように見える。職場、住宅、さらに、まち全体がどこの都市とも、よく似ている(むしろ、最近はどの都市もロサンゼルスに似ているといった方がよいかもしれない)。郊外のモールで、ホワイトカラーの人波がオフィスビルに吸い込まれ、吐き出されてくる様子を眺めたら、ロサンゼルスの経済と、アメリカの他の大都市の経済との違いをあげるのはむずかしいだろう。この面でも、ロサンゼルス経済には、土地柄を感じさせるようなものはなにもない。

ロサンゼルスの職場はなぜ、これほど外見上の特徴がないのだろうか。ロサンゼルス経済が多様化しているからだと、答えたくなるかもしれない。ロサンゼルス経済が見た目だけでなく、生産しているモノも「アメリカに似ている」からだ、という答えが返ってきそうだ。しかし、それは正解とはいえない。最近、ロサンゼルスが深刻な不況に陥っていることを見れば、多様化しているとはいえないけずである。地域経済学では、その地域の「輸出ベース」と「非輸出ベース」を区別することが多い。「輸出ベース」は、国内、国外を問わず域外に売る財・サしビスのことである。「非輸出ペース」は、域内の消費者を対象としており、保険代理店、ファーストフードの店員、歯科医などが提供する財・サービスがこれにあたる。

この分類にしたがえば、ロサンゼルスの輸出ペースが実際には特化していることがわかる。ロサンゼルスにはさまざまな産業があるが、少数の基幹産業、つまり娯楽、防衛、宇宙航空産業に大きく依存している。つい最近、カリフォルニア州南部が不況の波をまともにかぶっているのは、このためだ。世界の航空機受注の低迷にアメリカの国防費の大幅削減が重なり、地域経済全体が落ち込んでいる。しかし、ロサンゼルス経済がそれほど特化しているとすれば、経済学の手法をもちだすまでもなく、一見してわかるはずではないか。ひとつの答えとして、見た目では職業の区別がつかなくなっていることがあげられる。一〇〇年前には、服装を見れば職業がわかることが多かったが、いまでは、ロサンゼルスの航空機メーカーの従業員は、ニュージャージーの薬品メーカーの従業員と区別がつかない。ロサンゼルス経済がとらえどころがなくなっている理由は、ここにもある。