2013年7月5日金曜日

アメリカ経済を懸念する人々

それでは、アメリカ経済のなかで生産性の伸びが大きい産業はどれだろうか。まず、モノ(食料、衣料、自動車など)をつくる分野では生産性が上昇しているが、サービス業の生産性はあまり上昇していない。さらにいうなら、必要な情報をパターン化し、コンピューターやロボットのプログラムを組むことが比較的容易な分野では、生産性が大幅に上昇している。逆に、散髪や医療など情報処理の手順がわかりにくく、きわめて複雑な仕事、つまり、いわゆる常識が重要な要素になっている仕事では、生産性の伸びははるかに低い。

コンピューターやロボットに人間の代わりをさせることができない仕事、人間の感性を必要とする仕事は、直接に人と接するタイプの仕事でもある。農業、製造業、対人サービス以外のサービス業の生産性がきわめて高くなったため、アメリカ経済は他の分野、つまり貿易財以外のモノとサービスを生産することに力を入れるようになっている。その結果、最近では、都市住民の多くが「非輸出ペース」の仕事についている。ロサンゼルス住民の多くが地元で消費されるサービスを生産しているのは、このためだ。ニューヨーク、ロンドン、パリ、それに現在のシカゴでも事情はおなじである。

これでようやく結論に入ることができる。アメリカ経済を懸念する人は多い。これは当然である。アメり力経済は実際に、‘たくさんの問題を抱えている。しかし。、こうした人たちは見当違いの心配をしていることが多い。たとえば、「空洞化」の問題だ。製造業の職はいったい、どこにいってしまったのだろうと嘆く。そして、アメリカ経済が以前と違って、とらえどころがなくなっているのを見て、なんとなく不健全な気がしており、「消費は豊かだが、生産はそうとはいえない」(最近の『国際競争力年報』の言葉)と心配する。

しかし、ロサンゼルスを見るといい。典型的な工業都市ではないが、アメリカの他の大都市とくらべれば、製造業の比率が高いことはたしかだ。統計があれば、ロサンゼルスの工業製品輸出が輸入を上回っていることが、おそらくわかるだろう。ロサンゼルス住民の多くが、目に見えるものを生産しているわけではないが、それは、目に見えるものを生産することが得意なために、目に見えないものの生産にエネルギーを傾けているからである。一〇〇年前のシカゴと違うからといって、いまのロサンゼルスに問題があると考えるべきではない。

いうまでもなく、ロサンゼルスは現在、深刻な不況に陥っている。景気予測が専門のエコノミストは、今の不況はたまたま悪い条件が重なったためだと見ており、大幅な回復を予想している。しかし、今後、ロサンゼルスの景気が回復するにしても、以前とくらべて足取りが鈍くなる可能性もある。技術の進歩によって、二I世紀には別のタイプの都市が繁栄することになるだろう。あるいは、経済がさらにとらえどころがなくなり、全員が都市を脱出できるようになるかもしれない。しかし、ごく近い将来や遠い将来は別として、ロサンゼルス経済、アメリカ経済の見通しを言うならこうなる。外の世界とのつながりはとらえにくい面もあるが、基本的に経済はまともであり健全である。経済がとらえどころがないと、つい不安になるものだが、都市や国の豊かさはそう簡単に衰えたりはしない。